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深刻化する空き家問題、新たな法規制と対策で今後はどうなる?

各地で深刻化する空き家問題
近年、全国各地で増加する空き家が大きな社会問題となっています。総務省が2019年4月に発表した最新の調査結果によると、全国の空き家はすでに846万戸存在し、総住宅数の13.6%を占めるまでになっているとされます。いずれも過去最高の記録であるほか、なお増え続けているとみられ、2030年代には2,000万戸を超える空き家が生じるのではないかといった予測すら出されているのです。

空き家が増加している背景には、少子高齢化や人口減少、日本特有の新築志向で中古住宅は不人気なため流通が停滞しがちといった傾向が依然根強いことなど、さまざまな要因があります。とくに近年は、居住者が高齢になり施設に入居したり、亡くなったりして空き家となり、子どもは都会に出て実家に戻ってこない、遠方で新たに家庭を築いているなど、主を失って住み継がれなくなったまま放置されているケースが目立っているようです。

これらの例では、相続しても手を入れたり、取り壊しを行ったりすれば、費用がかさむばかりであるため、資産として活かされることもなく、空き家として放置されがちなのです。

しかし、空き家は長く放置されると管理不全で急速に経年劣化が進み、倒壊の危険性が高まります。衛生状態や治安の悪化につながるケースも多く、周辺住民の住環境の質を著しく低下させてしまうことが分かっています。

地震や豪雨・豪雪などで近隣の被害を拡大させる可能性も高いほか、避難経路や救急搬送のための道を塞いでしまい、さらに住民の命を脅かすリスクもあります。被災後においても、空き家があるために復旧工事を進めることができないなど、さまざまなシーンでその存在が足枷になり、地域全体の無視できない問題となるのです。

国や自治体における取り組みの流れ
このように空き家は防災、衛生、治安、景観など地域住民の生活環境に大きな影響を及ぼす問題のもととなるため、年々増加する事態を受け、国や自治体が対策を開始しました。

自治体が独自に条例を制定したり、助言を行ったりと、少しでも問題の解消につながるような施策をとるケースはこれまでにも多くありましたが、法的拘束力がないため、十分な成果は見出せていませんでした。

そして、そもそも「空き家」をどう定義するかという問題から、個人情報の問題、さらにどのような状態であってもあくまで私有財産であって、権利者でなければたとえ自治体でも勝手に手をつけることはできない、敷地内に立ち入るだけでも不法侵入になるなどの問題も大きくのしかかり、なかなか有効な手立てを打つことができなかったのです。

そこで、法的な問題や財政上・税制上の問題を乗り越え、より効果的な空き家対策を地域で実践していけるよう、国が法的根拠を示して支援することが求められるようになり、2014年の「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)」成立にいたったのです。同法は翌2015年2月に施行が開始され、同年5月に全面施行となりました。

空家法の内容とその影響
空家法は、居住その他の使用がなされていないことが常態となった建築物として「空き家」を定義し、年間を通じた人の出入りの有無やインフラ使用状況などから総合的に判断できるようにしました。

そしてこうした空き家の実態調査を行う権限を自治体に与え、所在や所有者の調査を行ったり、適切な管理・有効活用の促進を図ったりすることを可能としています。

また、倒壊などの危険が著しく高まっているものや、衛生上の有害性が高いもの、管理不全で著しく周囲の景観を損なわせているもの、その他地域の生活環境保全における観点から、とくに放置が不適切となっているものを「特定空家」とし、より実効性の高い措置がとれるようにもしています。

「特定空家」に対しては、行政が管理不全な常態を改善するよう、所有者に対して助言・指導を行ったり、さらに厳しく勧告や命令で通告したりできるほか、最終的には行政代執行で所有者に代わり、その空き家の解体・除却も行えるようになっています。

空き家の所有者は、まず特定空家に指定されないよう、注意して管理しなければなりません。とくに喫緊の対策が必要と認められる「特定空家」になると、郵送や職員による訪問で、まず管理に関する助言を受けることとなります。

これに従わない場合や、直ちに改善すべき状況がある場合には、より重い処分になる指導がなされ、それでも対応しないと勧告処分となります。勧告を受けた場合、事態は深刻ですから速やかに動かなければなりません。

勧告を受けた所有者は、固定資産税の特例対象からも除外され、固定資産税の税率を最大6倍に引き上げられます。空家法の制定以前は、住宅用地の特例で、空き家を残しておくと、更地より固定資産税を安く抑えられ、200平米以下の住宅地部分は6分の1、それ以上の部分も3分の1に税率を軽減してもらうことができていました。解体費用もかからず、固定資産税も増えないため“空き家の放置”を選ぶ人が多く、このことが空き家問題を深刻化させてきた面があったといえます。

そこで、法規制でこの特定対象を外すこととしました。これにより対象空き家の所有者は、優遇措置のない全額で固定資産税を負担しなければならなくなっています。ただし実際には、更地の固定資産税は評価額の70%を課税標準額に算定されること、空き家に価値があった場合その評価額分は課税基準額でなくなることなどから、6倍にまでは増えないケースが通常ですが、大きな負担増になることには違いなく、このような措置を受ける前に対応しておくべきでしょう。

こうした勧告処分でも改善されない場合、行政処分として「命令」に進み、これに背くと50万円以下の罰金が科されます。最終的には行政代執行で樹木伐採や塀の撤去、空き家となった建物の解体・除却が行われる可能性があり、これに要した費用は所有者負担になります。

こうした優遇措置の停止や罰則規定、行政代執行による強制撤去などで、本格的に空き家問題と取り組む仕組みとなっています。

対策はまだ始まったばかり
空家法は自治体の空き家問題関連施策に実効性を付与し、法的根拠を与えるものとなった点で画期的ですが、これひとつで問題が解消されてきているわけではありません。

措置実績をみても、年々広がりはみられるものの、2018年度までで助言・指導が行われた件数は全国で15,586件、そのうち勧告にいたったのが922件、命令が行われたケースが111件、代執行がなされたのは行政代執行と略式代執行を合わせて165件にとどまっています。急増する空き家に対し、措置実績はまだまだ少ないといわざるを得ません。

とくに強制撤去などの代執行は、自治体にとっても所有者の理解が得られにくいことや、単純には所有者を特定できず、権利関連が複雑で交渉相手自体を絞り込むにも苦労することなどから、実施ハードルが高くなっています。

借地上にある空き家では、さらに勧告の実効性が乏しいことや、代執行後の費用回収が非常に困難であることなども問題となり、土地の利活用も進んでいないケースが多いと報告されています。

また、倒壊の危険が高まっている空き家のある地域で、台風が接近しているなど、緊急に安全対策をとるべきケースへの応急措置に関する内容は、空家法に盛り込まれておらず、各自治体が条例で対応し、被害発生を防ぐ工夫をとるなどしている状況です。

一方、費用回収や撤去後の土地利活用が難しい、所有者の不明な土地に関しては、2018年に施行開始となった「所有者不明土地の利用円滑化等に関する特別措置法(所有者不明土地法)」で状況が改善される可能性が出てきています。

同法は法務省登記官が、職権で長期間相続登記未了であることを登記に記し、法定相続人などに登記手続きを促すことができるようにしたほか、自治体の長などに財産管理人の選任申立権を付与する民法の特例を設けたり、地域福利推進事業の実施が目的である場合、一定期間の使用権を設定可能としたりしています。空家法と合わせて適用されていけば、より広く問題解消に向け、実効性が高まる可能性があるでしょう。

また国は、そもそもハードルの高い代執行にいたるまでの空き家解消が進むよう、2017年10月には空き家・空き地バンクを開設しました。所有者はこの自治体サービスを利用することで、地方移住希望者など、住宅を求めている人とのマッチングを図ってもらえ、空き家を資産として利活用しやすくなります。空き家・空き地バンクは、すでに約600の自治体が参加・開設しており、のべ約9,000件の情報を集約、提供するフォーマットとなりました。

ほかに、自治体で撤去費や、地域集会所としての活用、インバウンド向けの宿泊施設、リモートオフィスとしての活用などに補助金を出したり、更地にしても税負担が過大にならないよう軽減する施策をとったりと、所有者による自発的な空き家の管理・処理・利活用が進むよう、さらなる取り組みを始めています。

いかがでしたか。空き家問題は深刻な社会問題であり、法規制やさまざまな対策・取り組みが始まった今、所有者個人も放置が許される時代ではなくなってきています。まずはしっかりと管理を行い、資産として賢く活かしていくことを考えたいですね。

(画像は写真素材 足成より)

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